人も歩けばなにかにあたる

本当は山行レポートを書く予定ですが、なぜかまずは今秋、東海道五十三次を徒歩で一気に歩いた記録から。

富士登山(2012.09.01)

山(登山)には爽快感や達成感があると思っていた。
抜けるような青空と、どこまでも続く景色。
都会の喧騒を離れ、大自然の息吹を感じる。
それが登山の醍醐味だと。

「日本人なら一度くらい富士山に」

そんな思いで、富士山に挑戦した今年、
僕が山に抱いたていたものは幻想でしかなかった。
富士登山に僕が思っていた醍醐味など何もなかった。
あったのは「絶望」だった。

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五合目到着時には軽く雨が降り
天候は芳しくない。

それでも、「せっかく買ったレインウェアだから」と
少しウキウキ。

俺が挑戦するんだから
これくらいのハンデがあってこそ
やる気が出るものだと
根拠のない自信に満ち溢れていた。

登り始める時に雨はやんでいたが
その後、降ったりやんだりを繰り返す。

そのため、見渡す限りの景色は雲につつまれ
僕らの周りは白一色だった。
5分ほど晴れ間が見えた時を除き
8合目の山小屋に着くまでほとんど同じ景色だった。
それでも標高が高くなるにつれ、
雲が下に見えるようにもなり
俺はこの雲たちの上に行くんだ。
そして、この雲があるおかげで雲海が見えるはずだと。
そう思って頑張った。

23時15分に起床し、山頂をめざした。
外は雨だった。

「天候によっては途中で頂上をあきらめるかもしれない」

そう言われて出発した。

雨と風がどんどん強くなっていく。
頂上に行きたかった。
富士山に来たんじゃない。
富士山の頂上に行くために来たんだ。
前日の登山者数から渋滞が予想された山道は
悪天候のために登山をあきらめた人のために空いていた。
チャンスだと思った。

「頼むから雨よ、やんでくれ」

暴風雨の中、そう祈りながらヘッドライトを付け、
足元だけを見て登り続けた。
山の天気が変わりやすいのならば
この雨も早くあがれよ、そう思っていた。

8合5勺(3450m)。
時間は2時半か、3時だったか。
御来光館の先で引き返すことが決まった。

仕方なかった。

気温は2度。
風は10m近く、雨は上下左右容赦なく身体を打ち続けていた。
山頂に近づくほど風はもっと強くなる。
ガイドさんがいるとはいえ
10人強の素人パーティが行けるレベルではない。

「あぁ、行けないんだ」

どうしたらいいかわからない、
行き場のない感情を抱えながら下山が始まった。

下山が一番つらかった。
雨風が一層強くなっていた。

「これでは行くのは無理だったな」

そう自分を納得させながら歩く。

心はほぼ折れかけていた。
それでも暗闇の中、歩きづけなければならなかった。
休みたい、けど、休むと身体がものすごく冷える。
下りは上りとは違い、力を使わないので熱が出ない。
体温はどんどん下がっていく。
頑張って下りてもなにもない。
でも歩かなければいけない。

朝の5時を過ぎ、空が白み初めても雨はやまなかった。
気温が上がり、風も雨もいくぶん弱くはなっていたが
山頂付近だけに雨が降っていたわけではなかった。
そもそも雨だったのだ。

9時間近く雨の中を歩いて5合目まで帰ってきた。
初めての富士登山はそうして幕を閉じた。
「来年リベンジだ!」という気分にはすぐにはなれなかった。
もうあんなつらい思いはしたくない。
これを機に登山を趣味にでもしようかと思っていた心も折れた。
でも、結局1週間後、俺はまた山に向かった。