人も歩けばなにかにあたる

本当は山行レポートを書く予定ですが、なぜかまずは今秋、東海道五十三次を徒歩で一気に歩いた記録から。

塔ノ岳・丹沢山(2012.09.07)vol.1

富士登山から5日。
僕は違う山にいた。

僕は貧乏性だ。
富士登山にかかった費用は
旅費、登山グッズの購入と10万円を超えた。
想定外の出費で、なけなしの貯金が崩れていった。

富士登山を機に登山を趣味に」は
引くに引けないものとなっていた。
同じ金額で海外にだって行けたはずだ。
しかし、登山の醍醐味すら味わっていないのだ。
それが、あんな富士登山で「いいね!」なんてなるわけがない。
だから、僕はもう一度山に登った。
10万円分の登山の醍醐味を味わうために!

過酷な富士登山から3日後。
会社で仕事もせずに日帰りで行ける山を探しまくった。
「日帰り 登山」で検索した結果
あるブログに、
「こんな素晴らしいコースを歩いたら、登山から抜け出せなくなりますよ。」
そんな言葉が書いてあった。
「塔ノ岳」の記事だった。
僕の山欲を満たしてくれるのはここしかない。
そう思って、僕は「塔ノ岳」をめざすことにした。
いっそのこと僕を「登山」から抜け出せなくしてほしかった。

「塔ノ岳」は人気があるらしく
土日は非常に混むとのことだったので
あえて金曜日に休みを取り山に向かった。
前日から天気が微妙な感じになってはいたものの
もう後戻りはできない。
それでも当日の朝はすこぶる晴れており
出発地である「ヤビツ峠」に向かうまでは
非常に気持ちがいい。
ヤビツ峠から登山道まで
「本当にここでいいのか?」と不安になるほど歩くと
山道に入る道が見えてきた。
近くの湧水で、顔を洗い、気を引き締める。
「さぁ、いこうか」
こうして「塔ノ岳」へのチャレンジは始まった。
初めて、ひとりでの登山だった。

 

富士山には山小屋がたくさんある。
なので、水でも行動食でも下界よりは高いけど必要なものは買えばいい。
「大人の登山をしましょう(金にものを言わせましょう)」
ガイドさんはそう言った。
それは、登山初心者の僕たちの荷物が重くして疲れを早めるよりは
無理しないでおきましょうという意味だったに違いない。
それで富士山のときは僕は1.5Lのペットボトルを持っていき
結局、それを飲みきることはなかった。

今回の塔ノ岳で、僕は何を思ったのか
「富士山で1.5Lで足りたから、今回は900mlでいいだろう」と
富士山と塔ノ岳の標高だけを比べて
持っていく水の量を決めてしまっていた。
これが後々ひどいことになった。

塔ノ岳は富士山のような単独峰ではなく
山が連なっているなかのひとつの山だ。
なので、いろんな山を伝っていくことになる。
二ノ塔、三ノ塔、烏尾山、行者岳、新大日、塔ノ岳という行程で。
いわゆる縦走だ。

事前に仕入れた情報によると
二ノ塔までが一番つらい道のりらしい。
しかし、それを過ぎればそんなに大したはことはないと。
登山経験がかなりある人のブログを見ると
約3時間で塔ノ岳まで到着していた。
僕は、バスケもやっているし、
登山をする人間としては年齢的にまだ若い。
脚には自信もあったので
塔ノ岳までの所要時間を3時間と見積もった。
(HPには3時間45分)

だんだんと標高があがっていくにつれ、
周りが白くなっていく。
5日前に見た景色とほとんど一緒だった。
真っ白だ。
「また景色見れねーのかよ」
登っている間に憤った。
ニノ塔まではそこまでつらくもなかったが
1時間で着くだろうと思っていたのに
それ以上の時間がかかっていた。
ニノ塔から三ノ塔までは15分とのことだったので
長居をせずにすぐに三ノ塔をめざす。
三ノ塔で10分程度休憩し
再び塔の岳をめざして歩き続けた。
次第に頭上から光がさしてきていた。
雲が晴れ太陽が出てきたのだ。
僕の頭の上だけに。

真上の空は青く、太陽の光は強かったが
周りを見ると真っ白だった。
富士山より標高の低い塔ノ岳登山はこの時期普通に暑い。
しかも下界よりは標高が高い分、日差しも暑く感じる。
そして僕は人より多く汗をかく。

登山時間は下山も含めると富士山より長い。
水分は富士登山以上に必要だった。
なのに、持ってきたポカリの量は
わずかに900ml。
少しずつ飲んでいたものの
塔ノ岳に着くまでにほとんどなくなっていた。
そして、ここには富士山のように山小屋はたくさん存在しない。
途中に2件あった山小屋はすべて閉まっていた。

「なぜオレはあんな浅はかな思考を…」

9時半から登り始め12時半。
塔ノ岳のひとつ手前、新大日で事切れていた。
3時間を要したが塔ノ岳には着かなかった。
二ノ塔まで行けば楽勝だと思っていた自分にとって
そこからの道のりも十分長く、全然楽じゃなかった。
自分に落胆した。
過信しすぎていた。
僕の登山の速さは並みだった。
そして、水はもうなかった。
(つづく)