人も歩けばなにかにあたる

本当は山行レポートを書く予定ですが、なぜかまずは今秋、東海道五十三次を徒歩で一気に歩いた記録から。

東海道五十三次徒歩の旅 11日目(新安城~桑名)

10月2日(木)

時刻、フタサンマルマル。桑名駅周辺。
「歩行者の状況は?」
「歩行距離、約5万2000m。行動時間、約16時間。
左足のかかとが痛みで地面につけません。限界に近いですね」
「この辺に休める所はあるの?」
「シャワー付の漫画喫茶はこの辺にありません。
ビジネスホテルはいま安い所をあたっていますが、どこも予約でいっぱいです」
「状況は芳しくないわね。四日市方面はどうなの?」
「約1万4000m先にありますね、シャワー付の漫画喫茶が。
ただ、時速4kmで歩いても3時間半で到着予定時刻は深夜2時半です。
歩行者のこの足の様子だと、とても3時間半で着くとは思えません。
4時間、いや、時速3kmほどなので、5時間近くかかるかと」
「やはり、多少経費がかかってもここは身体を休めるべきね」
「特捜班から入電。大浴場付きホテルが空いているそうです」
「よし、少し高いけど今夜の宿はそこにしましょう。直接向かうわよ」
「あの、予約はしましょうか?」
「大丈夫よ、もうそこに見えてるわけだし。行きましょう」

「大変です!ホテルが予約でいっぱいだそうです」
「なんですって?!さっきは空いているって言ったじゃない」
「そうなんですが、まさかこの5分の間で埋まってしまうとは…」
「今日は平日よ。いったい桑名で何が起こっているの?」
「ああぁぁぁぁぁーーーーーーーー!」
「歩行者が壊れました。そして、完全に沈黙…」
「無理もないわ。一度もう歩かなくていいと思ったんだもの。
それをいまから14km歩くだなんて、35歳の少年には厳しすぎるわ」

「歩行者、動き出します。どんどん加速しています。
時速3、4、5…、これまでにない速さで歩いています。まさに競歩です」
「動けるわけないのに。やめなさい、身体が壊れちゃうわ。
明日以降も歩かなきゃいけないのよ」
「うわぁーーーーー」

「歩行速度が落ちませんね。かれこれ1時間近く歩いています。
このペースだと2時半に着くかもしれまんね」
「早く着いて、早く寝るという考えなのね」
「前方に○○カフェという文字肉眼で確認。Google先生に聞いてみます」
「漫画喫茶なの?まだ5kmほどしか進んでないわよ」
「ダメです。先生も解析不能です。あっ、新たに文字が読めます。
シャワー完備、です。パターン青。漫画喫茶です」
「まさに渡りに船ね、入りましょう」

Google先生でも解析できない突然の漫画喫茶の出現。
これも東海道53次補完計画の一部なの?

という昨日のお話。(翌朝のFBより)

今日も今日とて、歩きます。

足はとても痛いです。
ですが、意地と根性だけで歩いています。
マメの痛みはさほどでもなくなってきましたが
コンクリートの上を歩き続ける痛みは全く消えることはなく
それに加えて、時間が経つと
踵が地面につけないほどの激痛が襲ってきます。

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間の宿・有松

池鯉鮒を越え、鳴海を越えた辺りで後方に
僕と似たような格好をしている人を見かけました。
赤いキャップにサングラス、登山用のザックにダブルストックと
平日の街中においてこれほど浮いた格好をしている人はそういません。
現代の旅装と言えるでしょう。

足を引きずりながら歩いている僕は
あっという間に追いつかれてしまいました。
信号待ちでどちらがということなく話すようになりました。

やはり、僕と同じく東海道を歩いている人でした。
ただ、驚いたことに年齢が82歳。
九州の方で、東海度を10日ずつ3回に分けて歩いているそうです。
そして、この日が2回目の最終日。
宮宿(熱田)まで約2時間、一緒に歩くことになりました。

話しながら歩いたおかげか、足の痛みを多少は忘れることができました。
やはり歩くことが好きな人は山に登る人が多いのでしょう。
60歳から始めた登山で、日本の山だけでなく世界の山々も歩き
現在も海外を含めて、様々な旅を楽しんでおられるそうです。
すげーパワフル!
自分の50年後、果たして東海道を歩こうなんて思えるでしょうか。
七里の渡跡まで一緒に歩き、おじいさんは熱田神宮
そして僕は桑名をめざし、握手をして別れました。
その力強い握手に、昭和の男の強さを感じました。

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七里の渡し

江戸時代は、宮から桑名までは渡し船で渡っていたのですが
いまはもうなくなっているのでひたすら1号線を行きます。
約25km。
この時点で15時でした。
少なく見積もっても6時間以上…。
頑張れるのか、俺。

しかも、予定の宿は四日市
四日市までは約37km。
そうすると8時間以上。
ここからいつもの1日分です。
常識的に考えて無理です。

で、とりあえず、行けるところまで。
そう思って歩き続けます。

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味噌カツ食べて、エネルギーを補給します!

17時前、思いがけず漫画喫茶が出てきました。
できることならここで休みたいけれど
こんなに早く休んでしまっては明日に影響があります。
しばし、葛藤の末、翌日以降のことも鑑み、先を急ぎます。

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弥富を越え、とうとう三重に入りました。
長良川を渡り終える頃には18時を過ぎ、あたりは真っ暗です。
足が痛い。
どれだけ精神力で歩いていても、痛いものは痛い。
薬局で、景気付けのリポビタンDと踵の痛みを軽減するために
インソールに張るジェル状のものを買ってみました。

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スーパーフィートのヒールカップが台無しです。
これで少しでも痛みが軽減するなら…
そんな藁にもすがる思いです。

結果、歩いてみるとジェル状のものは思いの外固く、
逆にその形が余計に踵に痛みを与えたので
30分歩いて、やめました。
お金の無駄でした。

真っ暗闇の長良川を渡り終えたのが22時過ぎ。
疲労と足の痛みで、気力が奪われていきます。
もはや四日市まで行くのは無理そうです。
多少、お金がかかっても今日は桑名のホテルに泊まろう。
そう決めて、桑名駅に向かいました。

携帯で宿を探してみるのもの
なかなか安いホテルが空いていません。
名駅につき、片っ端から電話をしてみることにしました。
が、全然空いていません。
ひとつだけ、7500円の部屋が空いていました。
予算がちょっとオーバーだったので
ちょっと考えますと、電話を切りました。
そのホテルには大浴場とコインランドリーがついていたので
環境面を考えるとこれはありだなと判断。
再度電話をかけるよりも、建物は見えていたので直接行ってみると、
すでに埋まってしまい満室になったということ。
たかが、5分しか経っていないのに…。

23時。
泊まるところがなくなりました。
ここから四日市まで約14km。
元気な足で歩いたとしても3時間半。
全く元気じゃないので、どれだけかかるかわかりません。
絶望しかありませんでした。

しかし、前に進むしか道はないのです。
歩き出しました。3時間半で歩くことができれば
2時半には着くので翌日も動けます。
もう、それにかけることにしました。
足の痛みを無視するようにして歩きました。

気合で歩き続けていると
1時間ほどしか歩いていないので漫画喫茶が出てきました。
ネットで検索しても出てこなかった漫画喫茶です。
シャワー完備ということで、すぐにそこに飛び込みました。

これでなんとか明日も歩けそうだとホッとしました。

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漫画喫茶(マリオ) ¥1814
水・食費 ¥1861
踵用ジェル ¥934
合計 ¥4609